『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』(岡田晴恵著)

岡田晴恵著『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)

岡田晴恵著『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)

2022年春になっても、コロナ禍は一向に収まらない。国内で感染が確認されてから丸2年間。患者数の増加と規制、減少と緩和を繰り返してきた。「日本は海外に比べ感染者数が少ない」「最新のオミクロン株は重症化しない」などと言われてきたが、大半の国民がワクチンを2回以上、接種したにもかかわらず、死者は増え続けている。特に“維新統治下”の大阪の惨状は極めて異常だ。

「中国武漢で原因不明の重症肺炎」の外電をツイートのタイムラインで目にしたのは2021年1月初めだったと記憶している。間もなく一夜城のようは巨大病院が作られ、各国が入国制限を行ったもかかわらず、日本は国内感染が明らかになったのちも、春節の観光客と習近平主席来日に期待してか、水際対策に熱心ではなかった。

2月に入り、神奈川港に着いたクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の乗客から、感染者が見つかった。この時も全員のPCR検査をせず、隔離期間を過ぎると公共交通機関で帰宅させるずさんな対応を取った。これでさらに国内感染が増加した。

3月に入って突然、安倍首相は全国の学校休校を決めた。金曜夕の発表にもかかわらず、翌月曜からの実施で、現場は大混乱となった。その後も緊急事態宣言、蔓延防止措置などを出しながら、少し状況がよくなると、GoToトラベル、GoToイートなど需要喚起策を実施し、ずるずると感染拡大を許した。利益誘導と五輪開催が、合理的な対策を阻み続けた。

筆者の岡田晴恵氏は元厚生省感染症研究所の研究員で、コロナ感染が始まったころからニュース番組などに連日、出演。「検査と隔離」の徹底で、感染封じ込めを説き続けたが、関係者が流すPCR検査精度デマや事実無根のスキャンダル報道などに翻弄されるばかりだった。

本書は、コロナを食い物にしようとした厚労省感染症研究所関係者をはじめとする学者や政治家たちの罪を、その肉声とともに詳細につづっている。なぜ中国や台湾にできたことが、できなかったのか。その障害は何だったのか。安倍政権のリフレ政策で十二分にバラマキを行ったうえに、さらにコロナ対策で膨大な国費が支出された。GDPに対する国債発行額は太平洋戦争終了時を超える。

同じく巨額の財政出動をした欧米諸国は、コロナ後を見据えた量的緩和縮小に舵を切り始めたが、空前の財政赤字を抱える日本は利上げすらできず、円安で輸入物価が急上昇し始めた。アベノマスクやGoToキャンペーンの利権構造さえ、明らかにできない政治とメディア。どうにもならぬほど劣化した日本の姿が、浮かび上がる。そこへロシアのウクライナ侵略が加わり、物価上昇とさらなる景気悪化が国民生活を直撃しようとしている。

国会ではコロナ対策をそっちのけに、憲法改正論議が与党と一部野党で繰り広げられている。ここしばらくで最も暗澹とした気持ちにさせられた一冊だった。コロナ禍を公開情報から統計手法で徹底分析したコロラド先生こと牧田寛氏の『誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?』(扶桑社)も、視点は違うが極めて興味深い。

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