『零戦少年』(葛西りいち著)

『零戦少年』(葛西りいち著、秋田書店)

『零戦少年』(葛西りいち著、秋田書店)

近年、特攻兵を扱った小説や映画などに「愛する人のために死ぬ」などというロマンチックな美談があふれている。志願とは名ばかりの死の強制を覆い隠したものばかりだ。
今回は、戦争を全く知らない世代の女性が、特攻を等身大の一人の少年の物語として描いたエッセー漫画を紹介したい。作者は、大学受験に失敗して漫画家になろうと決意した時に祖父・葛西安男さんから聞いた話を、31歳で一児の母となった2014年から連載作品にまとめた。

農家の11人兄弟の末っ子だった安男さんは、尋常小学校を出て国鉄に勤め、昭和14年(1939年)に海軍を志願し整備兵となった。さらに猛勉強の末、中学卒が多数受験する予科練に合格して、零戦乗りとなった。
フィリピン陥落直前の昭和19年(1944年)末、特攻を命じられながら、マラリアで出撃を免れ、本土防衛のため内地に帰還。再度、特攻隊に編入されながらも、敗戦で九死に一生を得た。
愛国の血気にはやる風潮とは無縁で「お国のため」などと考えたこともなく、「出世して金持ちに」「女性にもてたい」とパイロットを目指した、と語っていたという。

軍人らしからぬ動機だが、当時の戦記には毎晩の私的制裁で顔をはらしながらも「軍隊は白い飯が食える」とありがたがっていた農村出身者の話がよく出てくるから、意外に本音だったのだろう。
作品の中には、単座の零戦2機だけでテニアンまで2,400㌔を5時間で飛ぶなどという愛嬌もあるが、誇張も美化もせず飄々とした筆致で描かれていることで、安男さんの微妙な心のありようがよく伝わってくる。

安男さんは復員後、国鉄に勤め、定年後はコンビニ店長としてがむしゃらに働き続けた。「生き残ったことを恥じていた」と振り返る作者は、終章で自分や娘に命が引き継がれたことの感謝を記している。
細かい史実は知らなくても、このような作品に触れて、戦争の実相をきちんと記憶に刻んでくれる若者が、一人でも増えてくれることを望みたい。

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