『メディアの興亡』(杉山隆男著)

『メディアの興亡』(杉山隆男著、文藝春秋)

『メディアの興亡』(杉山隆男著、文藝春秋)

新聞は今も、最も信頼度の高いメディアであることは間違いない。
だが一企業として見ると、それほど盤石でないことも事実だ。地域の基幹企業を傘下に収め政財界を牛耳る社もあるが、新聞発行で“社会の公器”という権威と、取材と広告出稿に応じさせる“権力”を自ら再生産するモノカルチャー的経営が一般的だ。人件費が過半を占める労働集約型産業でもある。
この本は高度成長期、活版組版から電算機組版に移行する構造転換を、各社がどのように乗り切ったかを描いたノンフィクション。
大量の情報を締め切りに合わせ紙面に組み込む組版作業は整理記者や活版工の職人芸と人海戦術に支えられ、記事を各面で読み切る日本独特の紙面づくりが合理化を阻んできた。
世界最大の電算機メーカー、IBMと組んだ朝日、日経は、いち早く組版工程を合理化して経営資産を紙面充実に振り向けたのに対し、新聞協会賞の常連だった毎日は電算化に関心を示さず、読売は部数増に全力を傾けた。
近年はやや風景が異なるが、朝日、日経は安定した経営基盤を、読売は朝日を抜き発行部数世界一となった。毎日は倒産の危機に見舞われた。
物語は普段、ほとんど注目されない技術スタッフを中心に展開される。新聞業界の知られざる姿を抉り出すとともに、技術革新と向き合う経営戦略が企業の死命を制することをあらためて教えてくれる。
 
 
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