『機雷』(光岡明著)

『機雷』(光岡明著、講談社)

『機雷』(光岡明著、講談社)

海中にじっと潜み、通り過ぎる敵艦を破壊する機雷は、第二次大戦のころ、既に大変なハイテク兵器だった。米軍のそれは、磁気と水圧を一定回数、感知しなければ爆発せず、生き物のように突然目覚め、襲い掛かる。さらに航空機で空からばらまかれ、末期には日本の港という港をほとんど埋め尽くした。

物語の主人公は、海軍兵学校出身の青年士官。病を得て、第一線の駆逐艦から輸送船団を守る海防艦行きを命じられる。レーダー装備の潜水艦や航空機で、赤子の手をひねるように全滅させられる味方の艦艇。さらに掃海部隊に転属し、そこで機雷に出合う。

戦略を考えず戦術のみを重んじた日本軍は、海上護衛戦を軽視して輸送船のほとんどを失い、本土には工業原料はおろか食料も届かない。青年士官は誇り高き戦死と無縁の海で、次々の船が沈められていくなか、二隻の木造掃海艇で電磁石を下げたワイヤーを縦横計16回も引きずるという気の遠くなるような方策を編み出す。

著者は熊本日日新聞の元記者。この作品で直木賞を受けた。父は陸軍中佐で敗戦を迎え、土木人夫で生計を立てたという。あとがきに、戦争の勝ち負けは政治の問題であり「父をそこに追い込んだ政治を恨む。その恨みは深い」と記す。

全編に、真っ暗な狭い行き止まりのトンネの中で、後ろから棒か何かでつつきまわされるような閉塞感があふれる。登場人物はフィクションだが、描かれた出来事はすべて実際に起きたことだという。あまりに重苦しい読後感に、筆者の思いの強さが伝わってくる。

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