『被差別の食卓』(上原善広著)

「被差別の食卓」(上原善広著、新潮新書)

「被差別の食卓」(上原善広著、新潮新書)

フライドチキンのルーツが黒人奴隷料理であることを、この本を読むまで知らなかった。白人農園主が捨てる手羽や脚をデイ―プ・フライにすると、骨までおいしく食べられ、腹持ちもいいのだという。それが白人にも広まり、世界的なチェーン店もできた。
後に橋下徹元大阪市長の出自を紹介するなどして物議をかもした著者は1973年、大阪の“部落”生まれ。近年でこそ、アブラカス(牛の小腸を牛脂で炒り揚げたもの)やサイボシ(馬肉の燻製)は名物として売られているが、子供のころ屠畜場が並ぶ集落ならではの料理を、道路一本隔てた同級生たちが知らないことにショックを受けたという。
この本は著者が2005年に書いたデビュー作。フライドチキンの古里、アメリカ南部から同じく黒人奴隷が多く住んだブラジル、ロマのブルガリアとイラク、カースト制のネパールなどを訪ね、被差別の民の知恵と工夫の結晶である「抵抗的余り物料理」を紹介している。
意図したかどうかは分からないが、それぞれの地の“ソウルフード”と取り巻く人々の姿を描く筆致は、問題の重さを感じさせないほど、カラッとしていたのが印象的だった。
このとなみ野にも、ヨゴシ(菜っ葉のみそ炒め)、エビス、かぶら寿し、報恩講料理のいとこ煮など、長い歴史に培われた料理がたくさんある。あまり気づかないが、ちょっとした祭事、生活習慣も同様だ。私たちが先人たちの営みの延長上に生きていること、生かされていることを、あらためて考えさせられる。
続編に、北海道のアイヌ、サハリンの北方少数民族、沖縄、在日朝鮮人などの料理を紹介した「被差別のグルメ」(新潮新書)がある。
 
 
 
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