『兵隊やくざ』(有馬頼義著)

『兵隊やくざ』(有馬頼義著、光人社NF文庫)

『兵隊やくざ』(有馬頼義著、光人社NF文庫)

「戦争が好き」というと、右翼か軍事オタクのように思われそうだが、若いころから戦記をよく読んだ。戦後の混乱が落ち着き、戦争映画にも娯楽色の濃い作品が発表されだした昭和30年代、自らの従軍体験をまとめた本が数多く出された。わずか十数年前のこととあって、記述は生々しい。中には指揮官でありながら、あっけらかんと略奪や民間人殺傷を書いているものもある。「聖戦」の実相が垣間見える。
そしてその多くが、昭和末から平成にかけて文庫化され、少し前まで古本市場にあふれていた。よく買い求めたものである。

「兵隊やくざ」は、伯爵家出身でありながら、一兵卒として旧満州で従軍した有馬頼義の代表作。勝新太郎、田村高廣の主演で1965年に映画化され、8作の続編が作られるほど、大人気を博した。有馬は早稲田第一高等学院在学中、自作小説の稿料を受け取ったことで放校になり、徴兵延期を解除された。中学卒の学歴を持つにもかかわらず、幹部候補生試験を拒否して3年間、ソ満国境近くに駐屯。のちに同盟通信記者を経て小説家となり、反戦、反軍小説を書き続けた。
残念ながら作品は「兵隊やくざ」一作しか読んでいないが、映画は続編を含めほとんど観た。物語は、テキ屋あがりで暴れん坊二等兵、大宮(勝新太郎)と、その教育係を任された大学中退のインテリ上等兵、有田(田村高廣)を主人公に、兵営内のあれこれが建前ではなく実話のように真に迫って描かれる。有田は幹候試験を拒否しており、有馬の実体験と重なる。

舞台は、有馬が過ごしたソ満国境の孫呉。ソ連軍侵攻を目前にしながら繰り広げられる無意味な訓練と私的制裁、脱柵(脱走)と自殺、慰安所など、兵たちの虚しい日常がこれでもか、これでもか、と続く。続編では、軍服を盗んだ大宮が将校に化けたり、関東軍に置き去りにされた開拓民を軍のトラックを強引に借り出して救出するシーンなども登場する。

昨今の小説や映画には、「愛する人のために死ぬ」などと甘美な言葉があふれているが、それが全くの嘘であることは、あまりに明白だ。SNSや一部メディアに飛び交う「アジア解放の聖戦」「南京大虐殺はなかった」「従軍慰安婦は嘘」などに至っては、噴飯ものというしかない。それらが本になり、書店に平積みされているのを見ると、この国は大丈夫か、と思ってしまう。
別の作品ではあるが、吉永小百合、浅丘ルリ子、高橋英樹らの出演で大ヒットした超大作「戦争と人間」(1970~73年、全3作。原作・五味川純平)には、中国人労働者の虐待や、主人公のひとりが中国人捕虜刺殺訓練を拒否して“半殺し”の制裁を受けるシーンなどが、さも当たり前のように登場する。
それらが、当時を知る人たちが詰めかける劇場で上映されていたことひとつをとっても、昨今の言説の明らかな誤りが証明できるように思う。

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