『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(吉田裕著)

「日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実」(吉田裕著、中公新書)

「日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実」(吉田裕著、中公新書)

若いころから太平洋戦争に関する本をかなり読んできたつもりが、まったく知らなかった事実に驚かされた。海没戦死者のあまりの多さだ。37万人にも及んだという。
日本人死者310万人のうち、軍人・軍属は230万人。その3分の2に当たる140万人は、栄養失調などによるいわゆる餓死といわれる。残りは弾に当たって華々しく名誉の戦死を遂げたのかというと、そうではなく、3分の1以上が戦うこともなく海に沈んだのだ。

戦争末期、既に多くの輸送船を失っていた日本軍は、畳一枚の広さに3~5人も詰め込んだ鈍足の船団を、満足な護衛もつけず戦線に向かわせた。
大型船では一隻で優に数千人。そこへ、高性能レーダーを備え夜間や濃霧でも魚雷を命中させるられる米潜水艦が、暗号解読で先回りし無線電話を駆使して群がる。多くの兵士は沈む船から逃れ出ることもできなかった。

運よく海面を漂いサメのえさを免れても、護衛の軍艦から投じられる爆雷が、水中爆傷を引き起こした。爆発の水圧で海水が肛門から押し込まれ、腸管破裂などで苦しみもがいて死んだという。もちろん、懸命に逃げる僚船に助けられた者は、ごくわずかだ。

戦争の中ごろから日本軍には、特攻のように勝つことより死ぬことが目的ではないか、と思われるような戦いが目立つ。情報軽視と夜郎自大な状況分析を基にしたバラバラな作戦立案。失敗の責任を取る者もなく、補給のない前線では、飢えた兵士たちが野盗と化して現地民の糧食を奪ったり、戦友を撃ち殺して食う者さえいた。

「日本スゴイ」や嫌中嫌韓本、フェイク本が書店に平積みされる中、無謀な戦いの凄惨な事実をあらためて突き付ける書物が上梓され、10万部以上売れていることに、かすかな希望を見出したい。
ちなみに太平洋戦争の死者は、日本人310万人に対し、アジア全体で2,000万人ともいわれている。

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