『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(筒井清忠著)

『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(筒井清忠著、中公新書)

『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(筒井清忠著、中公新書)

韓国駆逐艦が海自哨戒機に射撃用レーダーを照射したとされる事件が、喧しい。日韓両国が各国語で制作した動画を公開するなど、対立は収まらない。 公式発表を見る限り「韓国駆逐艦が漂流する北朝鮮漁船を救助していた」「海自哨戒機が距離500㍍、高度150㍍まで接近した」ことは間違いないようだが、外交や軍事で事実関係がすべて明かされることはまずないから、真相は藪の中だろう。
日本は「照射された」「無線に返答がなかった」、韓国は「照射していない」「危険を感じるほどの威嚇飛行」と主張する。双方は、ともに米軍指揮下にあるといえるほどの間柄にもかかわらず、通常は水面下で解決されるような事案が、このような対立に進むのは異例だ。
日本の動画公開は、徴用工裁判などに反発する官邸の意向と伝えられ、ネット上には「韓国は北と組んで核攻撃するのでは」「自衛隊は韓国を討つべし」など、まさに戦前を思わせるような言辞があふれる。
昭和戦前期の政治史に詳しい著者は、本書で大正デモクラシーがスキャンダルにまみれて潰え、メディアと大衆がともに“共鳴”し合いながら作り上げた政治不信と熱狂が、無産政党までをも巻き込んで翼賛政治に突き進んだ経過を詳しくたどる。 その破滅への歩みは、現在の状況に極めて似通っていることが、よく理解できるように描かれている。
だが、残念なことに、冷戦下、アメリカの陰で先の大戦の過ちを顧みる必要のなかった国民に、著者が考えるような危機感を持てというのは、難しいように思えてならない。当時の新聞の役割を、現在の嫌韓・嫌中本やSNSが担っているとしたら…。
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